2016年4月 3日

日本人のためのピケティ入門

日本人のためのピケティ入門.jpg60分で分かる『21世紀の資本』のポイント
池田信夫著
東洋経済新報社
800円

 話題のピケティ。入門に挑戦。それでもストックとフローそして数式に悩む。何度も読み返す。格差メカニズムの必然性と日本にて進む別次元の格差を理解するまでに至る。混乱と無秩序が差し迫る前に異なる価値観の国々が協調してピケティの提案を受け入れられるか。

1.ピケティの研究
 ピケティらは、各地方に残る古文書を発掘し、統計の不十分な19世紀以降の各国の税務資料などを基に、所得税の資料から所得を、固定資産税から地価を推定した。「数量経済史」と呼ばれる最新の統計手法を使って、過去200年以上の欧米諸国のデータを分析した。

2.ピケティの結論
 今までの定説くつがえして、ほとんどの時期で不平等は拡大していて、戦後の平等化した時期は例外だった。そして、資本主義の根本的矛盾を不等式で表現した。
      r>g   rは資本収益率、gは国民所得の成長率
 ピケティは「資本」という言葉を広い意味で使っているので、rは株式や債券や不動産など、全ての資産の収益率。
 「資本家のもうけが一般国民の所得の伸びより大きく増えるので格差が拡大し、おまけに資本ストックは貯蓄されて相続されるので、資産の格差はますます広がる。」ことを指摘した。

3.ピケティの提案
 ピケティは、資本主義より効率の高い経済システムはないと考えている。これ以上の不平等を防いで保護主義や過剰介入から資本主義を守るため、グローバルな累進資本課税と、世界政府による金融情報の共有を主張する。
 資本課税は資本主義と所有権を守りながら、r>gの生み出す危険な結果を防ごうとするもの。それは21世紀のグローバル資本主義をコントロールするための新しい制度。その目的は所有権を尊重して個人の権利を守ることであって、所得の再分配ではない。

4.ストックとフローの関係
 ピケティの本を読む時に大切なのは、ストックとフローの関係を理解すること。rは資本というストックに対する比率、gは毎年の国民所得というフローの数字なので、直接は比べられない。
 不動産の場合は、rは賃貸料/地価、gは今年と昨年の所得の比率なので、両者を比較するには地価が所得の何年分かという数字が必要。それが資本/所得比率β。例えばβが5だとすると、国民所得が100兆円の国では500兆円の資本ストックがある。rが5%だとすると、500×0.05=25兆円が資本所得だから、残りの75兆円が労働所得で、資本配分率は25%。rが6%になってもβが4になると、400兆円×0.06=24兆円になって資本分配率は下がる。しかし20世紀後半以降、βが増えているというのがピケテイの見方。

5.ピケティの3つの主張
ポイント1 格差は拡大してきたのか
 ①資本主義の第1根本法則
  資本分配率(資本収益/国民所得)をαとすると、rは資本収益率、βは資本/所得比率なので、次のようになる。  α=r×β
  例えばある年に資本収益率rが5%で、資本/所得比率βが600%だったとすると、r×β=0.05×600=30、αは30%。
  βが同じで資本収益率rが成長率gより高い(r>g)と、資本収益の上昇率が賃金の上昇率を上回る。資本が蓄積されてβが高まると、この第1法則によってαがさらに大きくなり、労働者との格差が拡大する。
  今の先進国では、平均して資本収益率rは5%で、資本分配率αは30%ぐらい、土地の収益率も平均5%。株式の時価総額と利益の12~15年分ぐらいで、年間の収益率は6~8%(税込み)。
 ②資本主義の第2根本法則
  資本/所得比率βと貯蓄率sと成長率gの間には単純な関係が成り立つ。β=s/g
  たとえば貯蓄率sが12%で成長率gが2%だとすると、資本/所得比率βは長期的に600%(6年分)になる。貯蓄率が12%のまま成長率が1.5%に落ちると、資本蓄積が進んでβが増える。12÷1.5=8なので、長期的には資本ストックが国民所得の8年分になったところで止まり、それ以上は増えなくなる。
  人口減少(成長率の減速)と貯蓄率の増加があいまって、長期の資本/所得比率を上昇させている。長期的な均衡状態だから、短期的には常に成り立つとは限らない。

ポイント2  何が格差の原因か
 ①遺産は貯蓄より大きい
  不等式r>gは、過去の資産の収益が労働所得より大きいことを示している。先進国の対外純資産は実際にはプラスだが、そのかなりの部分が課税されていない。これが最近の最上位の資産比率が急増しているひとつの原因だと思う。
 ②累進課税をめぐる論争
  1980年頃から急に累進制が弱まり、これが高額所得者の所得が増えた大きな原因。ヨーロッパで法人税や金利・配当課税の税率を下げて企業や高額所得者を誘致する租税競争が激しくなり、最上位の高額所得者にとっては逆進的になっている。高額所得者の税率が下がったことが、税引き後の所得格差が拡大した直接の原因。

ポイント3  格差をいかに防ぐか
 ①教育が格差を減らす最善の手段
  公平で透明な試験は不平等を是正するうえで最も重要。しかし、世代間の所得の相関が最小なのが北欧で、最大がアメリカだという事実。アメリカが能力主義の社会だというのは、もはや建前にすぎない。アメリカのエリート大学の学費は極端に高く、親の社会的地位や大学への寄付などが勘案される。

6.タックス・ヘブン
 世界の対外純資産は対外債務より1割近く少なく、タックス・ヘイブン(租税回避地)に大企業や富裕層の所得が逃避している怖れが強い。タックス・ヘブンを使った「影の銀行」は、金融危機の原因ともなる。対外純資産を正直に計上しているのは日本とドイツだけ。

7.ピケティと日本との関係(原著ではなく著者の意見)
 ①日本の格差は性格が違う
 日本の問題はアメリカのように上位1%と残り99%の格差ではなく、正社員と非正社員。格差のひとつの原因はピケティも指摘するテクノロジーの変化。今まで高い賃金をもらっていたホワイトカラーの事務労働がコンピューターに代替され、パートや契約社員でもできるようになった。
 ②企業貯蓄(内部留保)
 日本で特異なのは、資本収益が株主に還元されずに、企業貯蓄(内部留保)になっている。この結果、株主資本利益率はアメリカの3分の1になる一方、企業が貯蓄超過になる異例の状態が続いている。資本収益があまり投資されないので、格差はアメリカほど拡大しないが、成長もしない。
 企業は金を借りて投資するための組織なので、それが貯蓄超過になっているのは異常事態。この原因は資本市場が機能していないから。
 ③ピケティがあまりふれていないグローバルな要因
 先進国では所得格差が拡大しているが、新興国が工業化したため世界全体で見ると格差は劇的に縮小している。先進国では単純労働者の賃金が新興国に近づくので、知識労働者との国内格差が拡大している。
 ④悪化する日本の交易条件
 グローバル資本主義にとって重要なのは、今までのように日本で生産して海外に輸出するのではなく、生産コストと税金の安い国で生産するのが当然。税引き後の利益を最大化するように海外拠点を配置する。
 円安で輸出物価が下がり、原油などの輸入物価が上がると、日本の交易条件が悪化する。連結決算で考えれば、法人税率13%の台湾から40%の日本に戻す理由がない。日本はもう「貿易立国」でないから、円安になっても貿易赤字が増え、景気が回復しない。

8.評価
 リベラル派の経済学者、ポール・クルーグマン(プリンストン大学教授)は「ピケテイは不平等の統一場理論を発見した」と絶賛した。
 ロバート・ソローは標準的な成長理論で説明した。労働からだけ所得を得る人々の賃金は、技術の進歩によって生産性が上がるのと同じくらいのスピードで上がる。しかし、それは経済全体の成長率より少し低い。なぜなら成長率は人口増加率を含むから。資本と人口を一定にすると、労働者の生産性が毎年1%ずつ上がると国民所得も1%増になる。人口が1%増えると国民所得は2%増える。

9.おまけ
 4~5%の資本収益率があれば遊んで暮らせることは、多くの文明で問題を引き起こした。それに対する規制として最も多いのは、キリスト教やイスラム教で行われた金利の禁止。アリストテレスも、金利が金利を生む仕組みは好ましくはないと考えていた。そういう弊害をなくすために金利を禁止することは、歴史上よく行われた。
 マルクスや社会主義者は、金利や搾取をなくすために、私的所有権そのものをなくそうとした。これによって「資本主義の根本的矛盾」は解決するが、価格も機能しなくなった。市場経済と所有権なしに経済は動かない。

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